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100万本の赤い薔薇
第1章 いつも見てた
始業時間より2時間早く出社した茉莉子は、
窓を開けて空気の入れ替えをしつつ、
パソコンを立ち上げ、メールをチェックしながら振り分ける。
今週の社長のスケジュールも合わせて確認する。
とはいえ、ほぼ頭に入っている内容と変わることはない。


社長宛のメールのうち、急ぎ翻訳が必要なものだけ翻訳を添えプリントアウトして、
その他のメールも確認や返信が必要なものを印刷して付箋をつけていく。

ディスプレイで見るより紙で確認したい社長に合わせた、
いつものやり方だ。


奥にある社長室に入り、窓を開けて空気の入れ替えをしながら、
観葉植物に水を遣り、
気になる葉っぱの手入れもする。

最後にデスクやローテーブル、キャビネットの扉なども拭き清め、
窓を閉めてから空調を入れる。

そして、アロマを炊くと、
ホッとした気持ちになる。


もう一度、室内を見回してから、
秘書室に戻り、
こちらも窓を閉めて、空調を入れてからアロマを炊くと、
男性秘書の林がちょうど出社してくる時間になる。


朝の挨拶を交わして、
スケジュールの共有と確認をする。

中国語のメールは、林の担当になるので、
ブツブツ言いながら翻訳を始める林のデスクに、
茉莉子はそっと、ジンジャービスケットを添えたコーヒーを置いた。


「謝謝」

「不客氣」

「茉莉子さんは中国語も上手ですよね。
普通に喋れるし。
台湾人みたいだ。
書くのは?」

「簡体字がよく判らないから苦手かな。
北京っぽい巻き舌も苦手。
舌が短いからかも」

中国語で会話を続ける2人。
舌をぺろりと出しながら、
茉莉子は笑う。



「おはよう。ここは上海か台北みたいだな」

社長が鞄を茉莉子に渡しながら、にこやかに言う。


「エレベーターの音に気づかず、失礼致しました」

と、茉莉子が頭を少し下げながら鞄を受け取る。


「私にもコーヒーと、そのお菓子を」

と言いながら、社長は自室に入っていく。



「畏まりました」

と答え、茉莉子は林にウィンクしながら、キッチンに向かう。





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