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100万本の赤い薔薇
第6章 嵐の夜
赤い薔薇は、水切りしながら丁寧に茉莉子が生けた。

小さな花瓶に刺したものを、
寝室や洗面所、
結依が使っている茉莉子の作業部屋にも置いた。
拓人の部屋にも置こうとしたら、

「いいよ。倒したらいけないから」とやんわり断られたのは、
長谷川のことを拒否してるのかな?とも思ったが、
本当にこぼすかもしれないと考えてるようでもあった。


長谷川は、部屋に戻って着替えてくるよと言って下に降りた。

拓人は茉莉子に、
「単純そうな人だね。
でもさ、単純なのが一番じゃないの?
それに、本当にお母様のこと、大好きなんだね。
おでこに、好きって書いてあったよ」と笑いながら言った。

それが本心かは判らないけど、
お互いに考えていることは口に出来るような関係を築きたいと茉莉子は思った。

夕食の支度をしてると、
結依と長谷川が茉莉子の部屋にやって来た。

結依はニヤニヤしている。


「じゃあ、セレモニーして」
と結依が言って、
茉莉子をソファに座らせた。


長谷川が咳払いをすると、
結依がカルティエの箱を開けて長谷川に渡す。

長谷川はブレスレットを手に跪くと、
改めて茉莉子に、
「結婚を前提にお付き合いください」と言った。

茉莉子は小さく頷き、左手を長谷川に差し伸べた。

長谷川はブレスレットを嵌めると、
ネジを付属の小さなドライバーで締めた。

いつもしているタンク・フランセーズとよくマッチしたコーディネートで、
茉莉子の華奢な手首が引き立った。

長谷川はそのまま、
恭しく茉莉子の手の甲に口づけを落とした。


「良き良き」と結依が言ったが、
拓人は無言のままだ。

長谷川は拓人の方を向いて、

「お母さんを、
いや、茉莉子と拓人くんと結依を護って幸せに出来るよう、
全力を尽くすよ。
でも、同じ男なんだから、
拓人くんも、茉莉子と結依を全力で護ってくれたら嬉しい。
そうなれるように、
そう思えるような家族にしていきたいと思ってる。
血の繋がりなんて、取るに足りないものだ。
どれだけ相手を愛せるか、思い遣れるかが重要だと思ってる」
と言った。

「お母様を泣かせたりしたら、
絶対に許さない。
ブン殴るからな」と言って、
拓人は長谷川に拳を突き出した。
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