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100万本の赤い薔薇
第6章 嵐の夜
「僕は?」
と拓人が言った。

茉莉子は目を細めると、
「拓人さんは、別の先生が良いかなって思ってるけど、
それも貴方が行きたければね。
2人ともタイプも音も違うから…」と思い出すような顔で言った。

「違った意味で、厳しい先生よ。
私は直接習ったことないけどね」



「もしも2人が音楽の道を進むなら、
出来る限りのことはするわ。
物凄く厳しいし、誰も助けてくれない荊の道になることは先に言っておきます。
自分との闘いの連続になるし、絶望することもあるから。
でもね、貴方達の様に生まれながらに苦しみを知っている人は、
誰よりも素晴らしい音を紡ぎ出せると思うわ」と茉莉子は静かに言った。

「ピアノも2台あるから、交代に練習も出来るしね」


「後で茉莉子さんのヴァイオリン、聴きたいな」と、
結依が甘えたように言うと、

「魂が削られちゃうからどうしようかしら?」と笑った。


「俺も楽器、習っておけば良かったな。
バイエルはまだ良かったけど、
ハノンが拷問のようにつまらなくて、
挫折したんだよな」と、長谷川が呟いた。

「お父さんは、聴く係で良いじゃない」と結依が笑う。


夜になっても、ベランダでのんびり過ごした4人は、
また、バーベキューグリルの火を強くすると、
パンやソーセージを焼いて、
少しカレー粉を振ってバターで炒めたキャベツを挟んだホットドッグで、簡単な夕食にすると、
部屋に入ってピアノを弾いた。

結依に頼まれて、ヴァイオリンを持ち出した茉莉子は、
結依の伴奏でユーモレスクを弾いた。

ふと見ると、拓人が泣いていた。
長谷川がすっぽりと拓人の肩を抱いた。
茉莉子は最後まで弾き切り、
「この曲、拓人さんによく弾いていたわ」と言うと、
「勿論、覚えてる」と涙を拭って言った。

「これからは、拓人さんとも演奏出来るわね!」と、
静かに言うと、
「私もちゃんと練習しないとね」と笑った。

この日は、
「仕事があるから」と長谷川は言い、
結依も「今日は自分の部屋で寝るね」と2人、階下に戻った。


翌日の日曜日も4人で過ごしながらのんびりと終わった。
茉莉子はもっぱら、常備菜を仕込んで過ごした。

翌日から使うつもりで注文しておいた炊飯器も届いた。
真剣な顔で説明書を読む茉莉子の横顔は、
拓人とそっくりで、長谷川は笑った。
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