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100万本の赤い薔薇
第6章 嵐の夜
長谷川が裁判所の医務室に入ると、
目に飛び込んできたのは、
真っ白な顔に血だらけの服で横たわる茉莉子に、
縋り付いて泣く拓人の姿だった。

「ま、茉莉子!拓人!」

鞄を放り投げて駆け寄る。
ひんやりしてはいるが、微かに息はしていた。

「あのオバさんが、お母様を刺そうとして、
その後、僕を見たら、
お母様がもっと苦しむようにって僕を刺そうとしたのをお母様が庇ってくれて…」

「茉莉子が刺されているのか?
病院に連れて行かなきゃ!」と慌てる。

「その時、お父様がお母様を庇って刺されたんだ。
お母様は大丈夫。
あのオバさんはその場で首を切って死んだよ」
と淡々言った後、

「お母様を護ろうと思ったのに、
一瞬、脚がすくんだんだ。
そしたらお父様が…」
と、泣く拓人を長谷川は抱き締めた。


「幾つになっても、親は子供を護るもんなんだ。
今は拓人は、まだ子供だ。
これからもっと強くなって、
茉莉子を護ってくれ。
俺、肝心な時に側に居れなくて、
そっちの方が情けないよ。
ごめんな」と言う。


ノックがすると、
佐々木弁護士が入ってきた。

長谷川は、名刺を取り出して、
茉莉子と交際していることを伝えた。


「そうか。
良かった。
こんな状態ではとても帰せないと心配してたんだ。
警察の調書は、後日にして貰った。
元夫は、意識不明の重体だそうだが、
今日はとにかく家に連れて帰ってゆっくり休ませてあげなさい。
それと、外部に漏れないようにしておいた。
これはマスコミさんとしては、ネタとしてはかなりのスキャンダルだけど、圧力かけておいた。
裁判所としても警備が手薄だったのでは?とか言われかねないことだから、公にはしたくないはずだしな」と、
冷静に説明してくれた。

そして、
「拓人くんも怖かっただろう。
お母様を支えてあげてくれ」と笑った。

その時、
「病院にご様子を見に行きます」
と茉莉子が言った。

「あんなヤツ、どうでも良いじゃん。
殺されそうになったんだよ?」

「でも、私を庇ってくださったわ。
それに…
最期の瞬間に独りぼっちなんてお気の毒過ぎます」

「お母様、なんてお人好しなの?
理解出来ないよ」


見兼ねた佐々木弁護士が言った。


「とにかく、一度帰宅してシャワーを浴びてから、
考えてみると良いよ」
と言って、長谷川に入院先を書いたメモを渡した。
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