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100万本の赤い薔薇
第6章 嵐の夜
髪を整えて貰った茉莉子は、
聖母マリアのような顔をしていた。

立ち上がると黒いワンピースを手に脱衣所に行き着替えると、
長谷川に声を掛けた。

「病院に連れて行ってください」

「えっ?お母様、行かなくて良いよ。
なんで?」

「言ったでしょう。
最期に独りぼっちというのは余りにも哀れな話です。
だって、あの出血と刺された処だと…
拓人さんが、顔も見たくないというのは判りました。
だから、私が見送ります」

長谷川は黙って頷き、茉莉子の腕を取った。


「留守番、頼んだぞ」と言って、2人はタクシーで病院に向かった。



緊急手術が続いており、
手術室の前には、初老の弁護士が草臥れた顔で座っていた。
確か、離婚した時にも話し合いの場に居た顔だと思い出した。


「時間軸で言うと、先に良子さんが亡くなったので、
その遺産は遺言により、弟先生と拓人くんに相続されます。
次は…」

「あの。まだ、生きてらっしゃるのでしょう?」

「そ、そうですね。
その後のことは、また…」


手術中の灯りが消えて、中から医師が先に出てきた。

「ご家族さまは?」と言うので、
茉莉子が立ち上がると、

「残念ながら…」と言われた。

ストレッチャーに載せられて運ばれて行くのをぼんやり見ながら、
茉莉子は弁護士に言った。


「大変申し訳ありませんが、
葬儀告別式については密葬ということで、
業者をあたっていただけますか?
お姉様については、ご遺体が戻るまで少々お時間も掛かるかもしれませんので、先にこちらを。
喪主は拓人さんの名前で。
ただ、とても参列するとは思えませんので、
私が立ち合います。
先生も恐れ入りますがお立ち合いいただけますか?
連絡するべきお身内は、既にいらっしゃらないはずです。
どうしてもご連絡すべき方がいらっしゃるかどうかも判りませんが、
こんな状況ですので、お知らせするべきではないかと」

そう言うと、バッグから自分の名刺を渡して、
「長引かせてもどうかと思いますので、
明日通夜、明後日密葬という方向でお願いいたします」

「あの…遺言状については?」

「葬儀の後、日を改めて先生の事務所にお伺いします。
と言っても、息子だけで宜しいでしょうか?
未成年なので、私も同行でしょうか?」と言うと、
「お2人お越しください」と言った。

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