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100万本の赤い薔薇
第1章 いつも見てた
近くの百貨店で、手土産のお菓子を見繕い、
会食の主賓の奥様が個展を近々開くということを聞いていたので、
花の手配を懇意にしているお洒落なフローリストに頼んだ。
会期中には、忙しい社長に代わって個展にも足を運ぶことになるだろう。
駅で新幹線のチケットをピックアップして戻ると、
幹部会がちょうど終わったところだった。

エレベーターホールで、幹部連中に会釈をしながら、
秘書室に戻り、
手土産と新幹線チケットを林に渡しながら、
申し送りをする。

多分、この後は、
社長も林も外出して、戻ることはないだろう。


2人を送り出すと、
慌ただしさは去り、静寂な空間に戻った。


茉莉子は持参したお弁当を広げ、
窓の向こうを見ながら、ゆっくりとお一人様のランチを取った。


午後は、幹部会の議事録を読み、
メール対応や次回の来客のリサーチ、
社長の出張先で必要になりそうな項目を調べてリストにした。


今日は早めに上がれそうかな?と思うと、
ぼんやり、バーで手助けしてくれた男の子の名前を思い出した。


そうそう、
ケンタって呼ばれてたわね。
どんな漢字なのかしら?
毎日バーに来るわけではないでしょうから、
取り敢えずママに、
彼のことを訊いてみようかしら?


そう思いながら、定時が終わるとパソコンを閉じた。

機密の漏洩などを避ける為、
茉莉子はパソコンを持ち帰ることはしない。
デスクにパソコンを入れて、鍵をかけたら、
帰宅する準備は完了だ。


まとめていた髪をふんわりおろし、
黒縁の眼鏡を外してケースにしまう。

使い込まれてはいるが丁寧に手入れをされているバーキンを持つ。

バッグには、
Hのエンブレムがついた長財布
予定表とメールだけ同期させて入っているタブレットと携帯電話、
薄手の手帳とペンケースに眼鏡ケース
ハンカチ2枚とティッシュ
小さなポーチとお弁当箱が入っている。

ポーチと言っても、化粧品がぎっしり入っている訳ではなく、
口紅と薬用リップ、アイブロウペンシルの他は、
ソーイングキットとバンドエイドと常備薬程度で、
到底女子力が高いものとは言えなかった。


茉莉子自身は、化粧も苦手で、
仕事でも眉を描いて口紅を塗るだけで過ごしているほどだった。
素顔が美しい茉莉子なので、
ノーメイクだということに気づく人は稀だった。
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