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100万本の赤い薔薇
第1章 いつも見てた
「OPEN」の文字を確認しながら、
重たいドアをそっと押す。


「お帰りなさい」

いつものママの声が迎える。


茉莉子もいつものようにカウンター奥のスツールに座る。


「今日は休肝日にしようかな?
ソルティドッグ用にグレープフルーツあるなら、
それを絞ってジュースにしていただけますか?
それと、私の代わりに、
ママ、ビールでも何でも、好きなものを飲んでくださいね。
フードは、週末食べすぎちゃったからナッツで」


タブレットをバッグから取り出して、
メールをチェックする。
今日もたいして何も連絡はなく、
不要なメールを削除したら、することは終わった。
携帯はカウンターに置くが見ない。
鳴ることも殆どないからだ。

ビールを持ったママと、グレープフルーツジュースで乾杯すると、
思い出したように茉莉子は尋ねた。


「この前の男の子、ケンタくんって言ったかしら?
よくここには来るの?」


「そうねぇ。忙しい時とか、お給料日前とかは来ないけど、
連続して来ることもあるし。
曜日はまちまちだけど、比較的金曜が多いかな?
時間帯は毎回遅めかな」


「そう。私ね、目が悪いけど仕事じゃない時は眼鏡外してるから、
よく見えなくて、全然気付かなかったけど、
時々ご一緒してたのかしら?」


「あらあら、可哀想に!
健太くん、茉莉子さんのこと、可愛いって言って、
いつも見てたのに」


「やだ。ママったら!
私、多分、彼のお母様とそんなに変わらない歳なのよ?
ケンタくんって、どんな漢字を書くのかしら?」


「ああ、名刺あるわよ。ほら。
健太っていうより、
もうちょっと繊細な名前が似合いそうだけどね。
栄養失調なんじゃないかと、
ついつい食べさせたくなっちゃうからね。
ひょろひょろしてるし、
大人しいしね」


名刺を見せてもらう。
ここから10分程の処にある中堅広告会社さんね。
グラフィックデザイナーね。
あら、カッコいいこと。

そんなことを茉莉子は思った。



「今日はあんまりお客様、来ない気がする」

ママの勘は、よく当たる。



「ねえ、そこのギター、ちょっと弾いても良い?」

と、マスターが置きっぱなしにしているガットギターを指差す。



「勿論よ」と言われたので、
茉莉子はギターを手にして、チューニングをし始めた。
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