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100万本の赤い薔薇
第2章 初めてのデート
部屋に戻った茉莉子は、
バッグの中から会社宛に届けられた手紙を取り出し読み返した。

もう何年も会っていない息子からの手紙だった。
連絡先は、インターネットで茉莉子の旧姓の名前を検索してたら勤務先の住所まで辿り着いたということだ。
少し驚いて、明日、会社のホームページなどを確認しなければと思った。


息子は、何故茉莉子があの家を出ることになったかの核心に近付いているようで、
茉莉子と会って話をしたいという内容だった。


真実を知ることは息子自身にとっても辛く、
また茉莉子自身にとっても口にすることすら悍ましいことだった。

でも、手紙に書けるような内容でもなく、
直接、自分の口で語るべきことだということも理解していた。



茉莉子は、ペールブルーの便箋を取り出し、
ブルーブラックのインクで丁寧に返信を書いた。

何度か書いては丸めて捨てて、
また書き綴った。

封をして、深紅の蝋でシーリングをすると、
ホッと溜息をついた。


今日の最大のミッションが終わった気持ちだった。


バスタブに湯を張りゆったり浸かりながら、
後はこの手紙をどうやって渡すかを考えなければと
茉莉子は考えた。

あの要塞のような館に送っても、
息子の手にこの手紙が渡ることはないだろう。

通学も、私との接触機会を無くす為、
車で送迎しているようだ。

でも、一番確実なのは、
やはり学校だという結論を出した。


家では飲まない茉莉子だったが今日くらいは飲んでも良いかしら?と考え、
キッチンの食器棚に向かう。

視察旅行で台湾に行った折、手土産にと醸造所で渡された木箱に入った小さいボトルから、1本取り出した。
あの時は、社長に付き合って、
シングルモルトの利き酒をしながら、
オリジナルブレンドを作って持ち帰ったことを懐かしく思い出した。
そのボトルは、いつか息子と2人、
グラスを傾けることが出来る時に開けようと、
大切に仕舞っている。

今日の息子からの手紙で、
そんな日が現実的になるかもしれないと感じた。

茉莉子はバカラのロックグラスに大振りの氷を入れ
ミニチュアボトルのウィスキーを注いだ。

リビングに戻ると、キャンドルを灯してからシーリングライトを消した。
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