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100万本の赤い薔薇
第2章 初めてのデート
コールした瞬間に、長谷川は電話を取ったので、
茉莉子は少し動揺して、沈黙してしまった。


「やっと電話してくれたね」

長谷川は、ゆったりした声で言う。

電話の向こうから聴こえたサックスの響きが小さくなると、
代わりに氷がグラスに当たるような音が聴こえた。


「キャンディ・ダルファー?」


「ジャスミンも聴くんだ。嬉しいな」


「ジャスミンではありません」


「じゃあ、茉莉子って呼んでも良いの?」


「下の名前で呼ばれるほど親しくはないと思いますが?」


「西高の先輩だから良いじゃん。何期違うのかな?
ジャージの色、何色だった?」

と訳の判らないことを続けるので、
ついついそのペースに茉莉子は乗せられてしまう。


「エンジでしたけど?
あー!
そうじゃなくて、この携帯、どうやって調べたんですか?」


と訊きたかったことを口にする。


カラン…
と、氷が溶けてクリスタルにぶつかる音がした。


「何、飲んでるの?」


「KAVALANです」


「珍しいヤツ、飲んでるんだな。
家で飲むのか?
まだあの坊やと一緒に居るのかな」


「お土産で頂いたもので…
そうじゃなくて、電話番号は?」


「坊やはもう帰ったんだな」


長谷川は全く質問に答える様子もなく、
会話を続ける。


「随分と可愛いボーイフレンドだったな。
歳下がタイプなのか。
てっきり歳上が好みなのかと思ったんだが」


「ボーイフレンドではないです。
それより電話番号は…」


「企業秘密だから電話なんかじゃ教えられないな」
と被せるように、しかも笑いながら言う。


「では、結構です」
と言って、茉莉子は電話を切った。


そして、すぐにリダイヤルして、

「もう、電話しないでください。
失礼いたします」
と一方的に言って、電話を切った。


長谷川は、切れた電話を眺めながら、

「難攻不落な姫を落とすのも悪くないな」
と笑いながら、グラスの酒を煽った。


そして、パソコンを起動して、
彼女のフルネームを入れて検索してみた。

便利な世の中だ。
比較的簡単に、彼女の勤務先を調べることが出来た。
その会社の広報ツールの中、会社概要ページの役員名簿の末端に、
小さく名前が出ていた。
単なる一社員とか秘書ではなく、役員なのかという点に、
少しながら驚きながらも、納得感もあった。
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