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100万本の赤い薔薇
第2章 初めてのデート
高層階へのバーに入ると顔見知りらしいフロア担当の男性が、

「長谷川さま、こちらで宜しいでしょうか」

と窓際に向かって横並びに2人用になっている席に案内する。


「いつものを2つ。それとタップリのミネラルウォーターを彼女に」
と伝える。


程なく、お絞りと水、
そしてロックグラスに入った琥珀色の液体とナッツが運ばれてくる。


「運命に乾杯!」

「いいえ、単なる偶然に乾杯!」


そういって、軽くグラスを上げた。

「マッカランかしら?」
と小さい声で茉莉子が言うと、

「へぇ。詳しいんだね」
と、感心した顔で長谷川は茉莉子の顔を見る。


「乾杯…と言っても、飲み干さなくて良いわよね」

と、茉莉子は笑う。


「日本酒を呑みすぎてしまったから…
お水をありがとうございます」
と、少し頭を下げた。


「やっぱり笑顔が可愛いよな。
15年前に会った時から気になっていたんだ」


「調子の良いことを!」と茉莉子は声を出して笑う。


「電話のことは、訊かないのか?」


「だって、企業秘密なんでしょ?
お酒一杯くらいでは、教えてくれないでしょうから
今日はお酒一杯分のお話しを聞くことにします」


「話すことなんてあるかな?」


「陽子先輩は、お元気ですか?」


「ああ…」

少し顔を曇らせて長谷川は少し黙ってしまったので、


「ごめんなさい。
いきなりプライベートなことを伺うのは失礼でしたね。
でも、共通のことってそれぐらいしか思いつかなくて…」

と茉莉子が少し申しなさそうな顔をする。


「いや、別に。
なんていうか、単身赴任って言ったけどむしろ別居だし、
陽子とはもう、殆ど顔を合わせることがないんだ」


「あの、ごめんなさい」
茉莉子は益々下を向いてしまい消え入りそうな声になる。


「娘が高校を卒業するか成人するか、
或いは就職するとか結婚するとかを待って、
離婚する感じかな?」

と、他人事のように言う長谷川な顔は、
とても醒めていた。


何と言ったら良いかも判らず、
下を向いたままの茉莉子の手を握って、


「ごめんごめん。
もっと楽しい話をしよう」
と長谷川は笑った。
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