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100万本の赤い薔薇
第2章 初めてのデート
とその時、後ろからモカが小さな身体からは想像もつかないほどの声で吠え出した。


茉莉子は慌ててモカを抱き上げて、

「ドアを閉めてください」と言った。


長谷川は慌てて玄関に入り後ろ手にドアを閉めたが
若干顔が強張っているようだった。


「モカちゃん、落ち着いて」

赤ちゃんをあやすように話し掛け、
モカを抱き締める。


うぅ…


落ち着いてはきたが、
まだ少し牙を剥いて唸っている。


「ここに置いていくよ」
と言って、長谷川は出ていこうとしたが、

「良かったら一緒にお豆腐、
いかがですか?」
茉莉子は思わず口にしてしまう。


昨日のことを詫びようと思っていた矢先に、
モカが激しく吠えたことで、
申し訳なさが湧いてきたからかもしれない。


長谷川としては、
ウキウキしながら茉莉子との距離を縮めようと思っていたのに、
苦手な犬に吠えられたことで、
すっかり意気消沈していた。

こんなに小さい犬でも怖いのか?
と、自分が情けなくもなった。


「犬、苦手で」

と言うのを聞いて、


「だったら寝室に連れていきますから、どうぞ」

と、屈んで下駄箱からスリッパを出す。


後について入るが、
思いがけない広さに長谷川は静かに驚いた。


「私もさっき、目が覚めたばかりなの。
ご飯炊けるまで、お待ちいただけるなら、
朝食、ご用意しますわ」

と言いながらソファを勧める茉莉子は、
返事も待たずにキッチンに入り、米を研ぐ。

吸水させる間に、
出汁を取り、味噌汁を作り、
小鉢に常備菜を少しずつ盛りつけた。

小振りの土鍋で米を炊きながら、
湯葉を鶏肉と合わせて治部煮風に調理し、
お豆腐は簡単に冷や奴にした。

トレイに1人分ずつ載せて、
長谷川に声を掛けた。


ダイニングテーブルにトレイを運び、
焙じ茶も用意した。



「一流ホテルの朝食より凄いな」と、
思わず呻いてしまった長谷川に、

「あり合わせです。お米も急いで炊いたからどうかしら?」
と答えた。


「昨日送っていただいたお礼ですから」


静かな朝食が始まった。
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