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100万本の赤い薔薇
第1章 いつも見てた
健太にしてみると、毎日バーで飲めるほどの給料ではないけど、
カウンター奥に座ってるあの人の笑顔が可愛くて、
時々仕事帰りに大人びたそのバーに立ち寄るようになった。

美大出て入社3年目。
グラフィックデザイナーっていっても、
まだまだ駆け出しで、大した仕事もしていない。

その店も、先輩が給料日の後に連れてきてくれたわけだけど、
自分の大阪弁がなんとなく恥ずかしくて、
いつも以上に無口になっていた。


ママさんは、なんていうか、
オカンみたいなイメージのどっしりしたヒトで、
マスターは、フードとか仕込んで暫くすると、
ちゃっかりレジからお金を持ち出して、
フラリと外に行ってしまうような、
緩い雰囲気のバーだから、
こんな若造の自分でも、
カウンターの端っこに居て、
なんとなく居心地が良いと、健太は感じていた。


カウンター奥に座ってるあの人は、
いつ来ても同じ処に座ってて、
静かに飲んで、何かをつまんで帰っていく。

ママと楽しそうに、
よく音楽の話をしているけど、
酔っ払いの常連オヤジたちにも、
すごく優しい笑顔で返事をしてたりするのが、
本当に癒されるし、
それ見てるだけで、仕事でイラついた気持ちも浄化されるように感じていた。
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