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100万本の赤い薔薇
第3章 怖くて堪らない
「ダメだ。
これ以上キスしてたら、こっちが気絶するかおかしくなりそうだ」

キスを辞めて茉莉子を抱き締めると、

「ほら、心臓がバクバクしてるだろ」
と笑う。


「…したことないんです」


「えっ?」


「こうやって抱き締められたりキスしたりしたことないんです」

茉莉子は淡々と続ける。


「学生時代には少しだけお付き合いしたり、
こういうこともあったけど、
なんていうか、うまくいかなかったりして」

とぎこちなく少し笑う。


「でも、結婚していた時は本当に酷くて」

と、静かに涙を流しながら震え出す。


長谷川は、もう一度しっかりと茉莉子を抱き締めて
髪を撫でた。


一体どんな男だったんだ?
何をされたんだ?


長谷川の中で怒りが湧いてくる。
と同時に、
いや、それ以上に茉莉子に対する深い慈しみの気持ちと愛情が急速に大きくなった。



窓の外はすっかり漆黒の闇に包まれていた。
涙も乾いて震えも治っていたが、
茉莉子から離れるまで、ずっと抱き締めていようと思った。
茉莉子にはいつも笑って過ごして欲しいし、
泣かせるようなことはしたくない。

そう思った。



「落ち着きました。
すっかり甘えてしまって…」
と言って、茉莉子が少し身体を離して、
長谷川を見上げる。


長谷川は額にキスをすると、

「良かった。
やっと、笑ってくれたな」
と言う。


「あ!ご飯炊かなきゃ」


「パンでも良いよ。
本当はずっとこうしていたいけど、
腹ペコで動けなくなりそうだ」


「えっと、お好みが判らないから、
取り敢えず万人受けしそうなハンバーグの準備はしてあります。
マッシュポテトを添えるから、
ご飯やパンがなくても大丈夫かも。
あんまり夜は、炭水化物取らないの。
すぐ太っちゃうから」


「何か酒とかはある?」


「頂き物のミニチュアボトルのウィスキーくらいしか。
お家にアルコール置いたら、
依存症になりそうで怖いから、
お酒は外で飲むようにしてるの」


「部屋から何か持ってこようか?
ワインならあるよ」

「…じゃあ、お願いします。
その間にお料理、しちゃいますね」


立ちあがろうとしたら、グラリと揺れた。

「キスで酔ってしまったみたい」

これ以上一緒に居たら、こっちの方が茉莉子に酔ってしまいそうだと思い、ひとまずワインを取りに戻った。


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