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100万本の赤い薔薇
第3章 怖くて堪らない
結婚した時、陽子は妊娠していた。
お腹が目立たないうちに式をしたいというので、
向日葵の咲くような式場も空いている夏に急遽式を挙げた。
司会もそんな訳で、当時学生で夏休み中だった高校の後輩である茉莉子に頼んだ。

ラジオのパーソナリティということで、局の関係者も呼んだが、
派手好きな陽子にしては質素な式だった。


陽子の妊娠については、
聞かされた時は正直驚いた。
きっちり避妊はしていたからだ。

ただ、避妊自体は完璧とも言い切れないし、
きっかけがないと結婚に踏み切れないもんだとも思ったので、
そのまま結婚することにした。


意外にも陽子は結婚後にはラジオの仕事も辞めた。
専業主婦になった陽子の希望で、
陽子の実家近くに家を建てた。

頻繁に母親が来ているようだったが、
まだ乳児の我が子を母親に任せて陽子が外出していることを、
その頃の長谷川は知らなかった。

妊娠中は体調が悪いからと言い、
出産後も夜泣きが仕事に障るだろうとか、
子育てに疲れていると言って、
長谷川とはずっと寝室を別にしていた。

陽子とは、結婚した直後から、
別居しているかのような状況ではあったが、
長女に対する愛情は強かった。
2人目も欲しいとも思ったが、
どう誘っても陽子は理由をつけては長谷川を拒絶した。


ちょうど仕事で忙しい時期でもあったので、
長谷川も仕事に没頭するようになった。
家に給料を運ぶマシンみたいだと自分のことを少し哀れに感じた。

その一方で、年齢的には男盛りだったし、
正直女性にはモテた長谷川は、ちょっとしたアバンチュールを楽しむこともあった。
基本は1回限りの遊びで、続けて会いたがるような女性はあっさり切り捨てた。

ある日、そんな浮気が陽子の知るところとなった。
長谷川と寝ることもないくせに嫉妬深い陽子は、
激昂して長谷川を詰った。

「子供が出来ないように手術してください。
冗談じゃないわ。
これで愛人が妊娠したりしたら、
泥沼じゃない」


愛人の妊娠より、
俺たちの2人目のことは考えないのか?
と反論したが、
感情的になった陽子に押し切られるように、
長谷川はいわゆるパイプカットの手術を受けた。

陽子との距離は益々広がり、
溝が埋まることはなかった。


ある日、商談で赤坂のホテルに行った時だ。
長谷川はそこで、思いがけない光景を目にした。
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