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100万本の赤い薔薇
第4章 新たな関係と思惑
長谷川が茉莉子の部屋を出ると、
急に部屋が広くなってしまったように感じたが、
濃厚な薔薇の香りを嗅ぎながら、茉莉子は少し自分をクールダウンしようと思った。


長谷川は一度部屋に戻ると、
仕事用のスーツに着替えて、念の為と翌日の仕事に必要な物を詰めて自宅へと向かうことにした。

陽子は家にいるのだろうか?


茉莉子の連絡先を調べようと先週帰った時は、
陽子も娘も留守だった。
念の為、家に電話をすると娘が出たので、
これから帰ると伝えた。


家の中は、整理はされてはいるが、
冷たくよそよそしさを感じるのはいつものことだ。


「お父さん、おかえりなさい」
と、娘の結依が声を掛けてくる。

「お母さんは?」と尋ねると、

「知らない。いつも出掛けてるから」と言う。

「ご飯は食べたのか?」と訊くと、

「コンビニでお弁当買って食べた」というので、
心の底から驚いた。

「いつもなのか?」
と更に訊くと、

「割とね。
おばあちゃんも最近体調悪いから来てくれないし」
と寂しそうに言うから、
声が詰まる。

「仕事ばかりでごめん。
ちゃんと、話も聞いてやれないしな」
と心の底から娘に謝った。

キッチンに立ち、冷蔵庫を開けると、
飲み物くらいしか入っていないので、
お湯を沸かしてインスタントの紅茶を淹れた。


「ピアノの方はどうなんだ?」

「えっとね、今度の土曜日、
コンクールに出るよ。
県民ホール」

「何時から?土曜日なら行けるよ」

「本当に?午後だよ。
出番は何時だったかな?
でも嬉しいな。
お母さんもどうせ来ないから、誰も来ないかなって思ってたの」

ずっと放置していたことを、
本当に申し訳ないと感じた。

「お父さん、ごめんね」

娘を見ると、泣いている。

「どうしたんだ?」

「知ってるの。
私、お父さんの子供じゃないんでしょ?」

「えっ?」

「なんとなくお母さんの口ぶりで感じることあったけど、
遺伝の授業で習った時にはっきり判った。
O型とO型からはO型しか生まれないのに、
私…」

「結依…
おまえは誰が何と言ってもお父さんの大切な娘だよ。
それより仕事ばかりでちっとも帰ってこないお父さんの方がごめん」

そう言って、長谷川は娘を抱き締めた。

「全然、何もしてやれてないからな」

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