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100万本の赤い薔薇
第4章 新たな関係と思惑
「あら、帰っていたの?」

ピアノを聴いていて、
外も暗くなった頃に、陽子が帰って来た。

「話がある」
と手短に伝えた瞬間に、
何の話をされるか陽子も判っていた。


リビングに行き、ソファに座り、
端的に言った。

「離婚しよう」

「やっと、言ったのね」

「離婚届は渡してあるぞ」

陽子は立ち上がり、カップボードの引き出しから少し黄ばんだ用紙を取り出した。
既に陽子も自書捺印していた。


「親権は、俺で良いな」

「えっ?あの子は…」

「結依は俺の子だ。経済力も俺の方がある。
それで良いな」

「判りました」

「慰謝料は請求しない代わりに財産分与もしない。
この家は売却して、結依に金を残す。
お前は速やかに出て行ってくれ。
実家に帰るなり、あいつの処に行くなりしてくれ」


怒り狂ったりするのかと思ったが、
陽子は凍りついたような顔をしながらも冷静だった。


「後で揉めるのも嫌だから、
書面にさせて貰っても良いか?」
と言って、
白いレポート用紙にカーボンを挟み、
ウォーターマンのボールペンで一つ一つ覚書として記載し、
最後に日付と署名をし捺印した。

陽子もノロノロと文章を読み、
署名をと捺印をした。

カーボンの下のコピーにも捺印して、
互いにそれを持った。


そして、娘をリビングに呼んで、
2人が離婚することと、
親権は父親が持つことを伝えた。

結依は、
「出来たら早く、お父さんの処に行きたい」と言うので、
ひとまず、今週中に荷物をまとめることと、
土曜日のコンクールが終わったらそのまま長谷川の部屋に来ることにした。

最後まで陽子は下を向いたままで、
長谷川の顔はもちろん、娘の顔も見ることはなかった。


長谷川はその場で、陽子の実家にも電話をして、
夜分に申し訳ないが、これからそちらに伺いたいと連絡した。

陽子は動く気配もないので、
離婚届と覚書を持ってすぐ近くにある陽子の実家に行き、
両親と、同居している兄夫婦に、
離婚をすることと、娘の親権は長谷川が持つこと、
家の処分に伴い、陽子は実家に戻るか他に住まいを探すことになることを伝えた。

離婚の本質的な原因には言及しなかったが、
実家の母親は薄々事情を知っている様子だった。
陽子の父親と兄に離婚届の証人として自書捺印をしてもらった。

帰り際、陽子の母親が土下座をする様に謝罪した。
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