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甘い復讐
第1章 序章 -アルバート-
「マリア?マリア??どうしたんだ?
……マ、マ、マリアーーーー!!!!」


月明かりに照らされ、
目を見開いたままベッドにぐったりと横たわる少女は、人形のように見えた。

人形、そう血の気が失せ、月光に青白く光る少女の肌は、まるで陶器のように無機質で、その魂が既に身体に宿っていないことは一目瞭然である。

見開かれた目の奥にある瞳は輝きを失い、まるで濁ったガラス玉のようだが、緑色の美しい色をしている。


まだ、あどけなさの残る少女だったが、柔らかそうなさくらんぼの唇、形の良い鼻梁、まんまるの愛らしい額、月明かりに輝くブロンドの髪。

生きている時は、さぞかし美しく、皆からの愛を一身に受けていたのだろう。



屍となった少女に、男は何度も、

「マリア!マリア!」

と叫び、少女の身体を激しく揺すったり、抱き締めて身体を起こそうとしたり、どうにか魂を身体に呼び戻そうと、虚しい試みを繰り返した。



どれぐらい時間が経っただろうか、男はようやく、それが無意味だと悟った。

そして、乱れた少女の衣服や髪を整え、やっと少女の見開いた目を閉じてやった。



「うっ…うっ…、、、マリア…ど、どうして…」

マリアとは、その男の血の繋がっていない妹だった。

父が再婚した女性の連れ子で、年齢は7つ離れていたが、男によく懐き、男も少女のことを愛していた。



男の名は、アルバート。

この辺りの領主の息子で、22歳を迎えた今年、父から領地を受け継いだばかりだった。



「どうして…。昨日まで、あんなに元気だったのに…。」

アルバートは、冷たくなったマリアの頬を撫で、生前毎朝していたように、頬に優しくキスをした。

マリアの首が少し傾き、肩に掛かっていた髪がハラリと落ちた。

その時、露になったマリアの首筋を見たアルバートは、自分の顔が一気に青ざめていくのが分かった。

その首筋には、2つの小さな穴がくっきりとあり、そこからうっすらと血が滲んでいるのが、アルバートの目に飛び込んで来たからだ。


「これは!!まさか!!そんな…!!」


血の気が一気に引いていく。

ぐったりした妹を見つけた時は、急に心臓が止まってしまったか、病気になってしまったのかと思った。


しかし、そうでは無かった。

マリアは、吸血鬼に血を吸い尽くされて死んだのだ。
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