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また桜は散り過ぎて
第13章 クリスマスの夜に
 壁の時計が7時を告げた。もうこれ以上時間を費やしたら小西さんに、
この喫茶・桜葉に迷惑がかかる。
「もう7時・・8時まで1時間しかなくなっちゃいましたね。
 ごめんなさい、今日はこれで帰ります」
 代金をテーブルの上において立ち上がる。
コートの袖を通さずに肩にかけたままドアへと急いだ。
が、ドアの前で立ち止り、小西さんを振り返った。
「最後にもう一つだけ・・弟さんのお名前はなんていうんですか?」
「しょうごと言います」
やっぱり・・また涙があふれてきた。
「小西さん、今夜はいいクリスマスになりました。素敵な夜でした。じゃあ、また」
 手を振る私に返してくれた小西さんの笑顔は、今まで見た中で一番素敵な笑顔だった。
 
 クリスマスの夜はまだこれから。
商店街を弾むように行きかう人々の頭上に、時折何かが降ってくる。
夜空を見上げ、手のひらを差し出してみると、小さな白い粒が一瞬で消えた。
雪だ。細かくて、よくよく見ないと気が付かないような、小さな粒。
 スピーカーから流れるジングルベルに誘われて、商店街の方に引き返す。
今夜はワインでも飲もう。そして私の心と彼の心が同じであったことを
一人グラスを掲げて祝おう・・




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