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また桜は散り過ぎて
第3章 一つ目の桜
新宿駅を人の波に押し流されるようにして出る。横断歩道のむこうには、
目の前のバスタ新宿からこちらへ向かって大きな荷物を引っ張る人々が
浮かれた足取りで渡ってくる。
今度は波に乗るようにしてかわして渡り、甲州街道沿いに進んでいく。
もう一回信号を渡ってから裏道に入ると、
さっきまでの喧騒が半減するくらい人の数が減った。
裏道の中ほど、道路に面してある「さくらBAR」。
その店の扉を引くと、年齢の割には人懐こい表情のマスターが笑顔を浮かべた。
「いらっしゃい!お疲れさん!」
「こんばんは!ほんと、今週も一週間お疲れさまでしたってことで、早々とやって来たよ」
時刻はまだ7時前。バーにとってはまだまだ走り始め。
どこか別の店で食事をしてから来る人が多い中、私は最初で最後の店として足を運ぶ。
ここで食事をしてここで少しお酒を飲んで、終電よりもはるかに早い時間に家路に着くのが
私のモットーなのである。
「今日は特製シチューパンは・・あるかな?」
まだ誰も座っていないカウンターの、中心の席に座りながら店内を見回した。
窓際の席に二人組が二組。私で5人目。ということは、
彼ら全員が注文していても私の分もあるな、と笑みを浮かべる。
一日6食限定のこの特製シチューパンは大人気なので、ありつける確率は半々なのである。
「あるよ。じゃあシチューパンと、まずはこれかな?」
言いながら私の前にきめ細やかな泡の帽子をかぶった黄金色のグラスをすっと置いた。