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また桜は散り過ぎて
第3章 一つ目の桜


 「ねえ聞いて。明日うちの近くの商店街に喫茶店がオープンするんだけどさ」
洗い物をする省吾さんの注意を引くかのようにカウンターに身を乗り出し声をかけた。
「喫茶店?なんかいいね。最近ないもんね」
「私たちって喫茶店になじみがないから余計にそそられるんだよねぇ。その喫茶店がね」
そこまで言って、なぜか私は口をつぐんだ。
 省吾さんとおんなじ名前なんだよって、ただそれだけのことなのに、
なぜか今は隠しておきたくなった。
 お店の雰囲気、とりわけ店主の雰囲気や人柄も知らない。
行ってみて、もしも今一つの感じだったら、次話す時になんて言えばいいんだろう・・
「で?その喫茶店がどうしたの?」
省吾さんの声に我に返った。
「あ・・その喫茶店の店主がイケメンだったって、お総菜屋のおばちゃんが喜んでてさ」
とっさに石沢ミートのおかみさんを出しに使った。
「わかった!イケメンだって聞いて、晴海ちゃんも張り切ってんじゃないの?
 俺よりかっこよかったらここはお払い箱になっちゃうんじゃないだろうね?勘弁してよ」
憂いた瞳で見つめられて、思わず体の中心がきゅんとうずいた。
お払い箱になんかするわけないじゃん。
だって、ここに来る目的は、あなたに会うためなんだから・・・






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