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また桜は散り過ぎて
第8章 他人の感覚

 省吾さんのお店に人を連れて行くのは初めてだった。
自分の行きつけの店を誰かに教えるのは、自慢でもあるが不安でもある。
そこをとっても気に入られてしまったら、秘密基地を盗られてしまうような危機も感じる。
「町田さん、新宿に行きつけの店があるって言ってたじゃない?
 ちょうどいいじゃん、二次会に」
 同僚の柳田美枝に誘われた、ホテルのディナーバイキング。
先輩の片桐祥子さんも私も二つ返事で承諾した。
新宿西口の高級ホテルのバイキングは、かなりいいお値段なのだが、
ボーナスが入った後となると財布も緩む。
「年に一度か二度くらい、贅沢したっていいじゃない?いや、これは贅沢ではない!
 日頃がんばっている我々へのご褒美なのだ!」
「片桐さんのおっしゃる通り!柳田ちゃん、よくぞ誘ってくれました」
エヘンと胸を張る柳田さんを先頭に、天井の高いエントランスへと、
久々に履くヒールの音を響かせた。



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