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また桜は散り過ぎて
第8章 他人の感覚

 どれだけ食べれば気が済むのか、何回皿を変えれば気が済むのか、
というくらい多種多様の料理とデザートを味わって、
ロビーで少しお腹を落ち着かせてから、いざさくらバーへと腰を上げた。

 普段だったらホテルの場所から10分かからずに店まで行かれるはずだが、
満腹であることとお喋りに花が咲いて、15分ちょっとかかってたどり着いた。
 「いらっしゃい、待ってたよ」
省吾さんはいつもに増してカッコいい笑顔で出迎える。
片桐さんも柳田さんも、目を輝かせながら甲高い声で挨拶を返した。
「どうも、初めましてぇ。私たち町田と同じ職場の愉快な仲間たちですぅ。
 マスター、カッコいい!」
柳田さんはメロメロ。片桐さんもヨダレを拭う真似をする。
「初めまして、桜葉です。晴海ちゃんにはいつもひいきにしてもらってます」
省吾さんが晴海ちゃん、と名前を呼んだことにすかさず反応する二人。
やだぁ、名前で呼ぶ仲?と冷やかしの声をあげると、
「ご想像にお任せします」とわざと意味深な言い方をする省吾さん。
そういうとこが意識させるテクニックなのだろうが、
単純な女はかなりの勘違いをしてしまう。
 二人に愛想を振りまく省吾さんにぼんやりとした視線を向けながら、
小西さんだったら言わないだろうな、とあの静かな横顔を思い浮かべる。
私は・・省吾さんの事を好きだと思っていた。でも彼に出会ってからは・・
その気持ちが定かではない気がしてきた。


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