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また桜は散り過ぎて
第8章 他人の感覚

 駅前から続く商店街は、外灯と居酒屋の明かりくらいで、あとはみな閉まっている。
暗い石沢ミートの前を通り過ぎ、喫茶・桜葉にさしかかる。
ここももちろん店は閉まっていて、暗く静まり返っている。

 小西さんか・・ぽつりと口から出た、名前。
こにしやすのりさん・・
あなたはどんな男性なんだろう、女性に対して。
省吾さんとは明らかに違う、と今は判断してしまうけど、もっともっと彼の奥を知ったら、もしかしたら想像とは全然違って意外と情熱的だったりして。
今度おしゃべりする時にそういう類の話を振ってみようか・・

 フフッと小さな笑い声を漏らした後、急に気づいた事がある。
そういえば、省吾さんに好きな女性のタイプだとかどんなふうに接するのかとか、
聞いたこともないし聞いてみようと思ったこともない。
かっこよくて素敵な男性、そのうえ話し上手でこちらに気を持たせるのが上手、
と私が思っているだけで、本当の彼を知ろうと積極的に動いたことはない。
 でも、小西さんに対しては、知ってみたい、知るために聞いてみようと考えている。
・・私は省吾さんの事を好きなんだと思っている。でもその気持ちだけ?
それで終わりなの?・・

 しばし立ち止まっていた足がゆっくりと動き出す。
喫茶・桜葉は私が通り過ぎるのをただ黙って見送るだけ。
アパートがある大家さん宅の門柱の明かりが、
早く帰っておいでと瞬いているように見えた。




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