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また桜は散り過ぎて
第9章 さくらバーで知った、今と過去
さくらバーの省吾さんと喫茶・桜葉の小西さん。
どちらの男性にも中途半端に好意を寄せたまま、季節は真夏の盛りを過ぎようとしていた。
通う頻度で行ったら喫茶店の方が多い。
気軽に行かれるし、なんといってもアパートからすぐという立地も大きく影響している。
金曜の夜にも寄ったりするから、仕事帰りにバーで酒を飲むのは月に1回程度になった。
以前から、頻繁にバーに通っていたわけではないから、
私としては気持ち減ったかな程度の間隔でしかなかったのだが、
省吾さんは店に顔を出すたび久しぶりを連発する。
「なんだかそんなに久しぶり久しぶりって言われちゃうと
もっと通わなきゃいけないみたいじゃない?」
冗談めかして言ったつもりだが、省吾さんの目は少しいじけるように細くなっていた。
「商店街に喫茶店ができたって話聞いてからなんかここへ来る回数が
減ったような気がするんだよねぇ。
バーのマスターより喫茶店のマスターの方が魅力的なんじゃないの?」
あら完全にヤキモチ、とからかってみると、途端に態度を変えて、
「いや、俺は晴海ちゃんの心をつかんでるって自信あるから大丈夫」
と、お得意の気を引く大胆発言を浴びせかけてきた。
こういうところ、正直言うと子供っぽくてかわいらしいと、少し笑ってしまう。
「ほんと、省吾さんって強気だよね。でも似合ってるから、いいんじゃない?」
そうかい?と鼻で笑ってから、
「まだ誰もいないからこれサービス」
そう言って冷蔵庫の中から生ハムとチーズのカナッペを出してくれた。