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恋とエロス
第4章 手の届かないひと
どうにか体育館から出て、渡り廊下を校舎の方へ進むと、窓の外に大勢の人々が見えた。新歓イベントから帰る新入生たちと、彼らを部活やサークルに勧誘しようと待ち構える先輩たちが、賑やかに行き交っているのだ。
さっきまでよさこいを踊っていた男女も、目立つ衣装のせいで何人かそこにいるのはわかったが、分散して別々に行動しているように見えた。後で知ったことだが、彼らはチームではあるものの、サークルや部活動としてやっているわけではなく、イベントなどの要請がある時にしか活動しないらしかった。
私はこれといって入りたい団体はなかったけれど、その勧誘の渦の中を通過しないと帰れないので、仕方なく歩き出した。
「あ、三条匡……」
遠目でもすぐわかって、思わず凝視してしまう。
彼は背の高い男と一緒に、はじけるような笑顔で三味線を弾いていた。
長い前髪をピンで留めているおかげで顔立ちがよく見えた。
よさこいのメイクのままだが、切れ長の目が印象的で、鼻筋の通ったすっきり系の顔で、他のパーツに比べて口が大きい気がした。
彼が仲間たちと音楽サークルを立ち上げて活動していることは、情報としては知っていた。
基本的には音楽好きの集まりで、バンドを組んだり、音楽イベントを計画したり、大学の内にとどまらず色々やって楽しんでいるのだという。
人前に出ることや派手なことの好きな男なんだなと、聞いた時はそう思った。
本来、あまり多くの人間と親しまないはずの三条家の後継者が、少なくない仲間を作って青春を謳歌している。
そのことの意味を、出会う前の私はまだ知らなかった。