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恋とエロス
第4章 手の届かないひと
それにしても……やっぱりおかしい。どうして彼を見ると興奮してしまうのか。
もし近くに人がいたら、荒い鼻息を隠しきれない新入生にびっくりしただろう。ショーツは更にビショビショで、おもらしでもしたみたいで気持ち悪かった。
「一緒にテニスやらない?」
「中国語サークルです」
「経済を勉強しましょう」
かけられる声をスルーして、私は本能に導かれるように、匡めがけて一直線に進んでいた。
頭がぼうっとしていて、無意識の行動だった。
「入会希望?」
声をかけられてハッとした。
目の前に三条匡がいて、私の顔をのぞき込んでいる。
「いえ……」
慌てて言葉に詰まったが、立て直しは早かったと思う。
「三味線って、弾いてるところ見たの、初めてだったので」
嘘ではなかった。
「思わず寄ってきちゃうほど良い音色だった、と?」
私がうなずくと、匡は目を細め、にっこり笑った。
後でわかったのだが、実はその時、匡の隣にいた背の高い男は豊川道成だった。
私がショーツをいやらしい粘液でびっしょり濡らしていた、まさにその時、道成は私に一目惚れしたのだという。
なんて滑稽で、可哀想で、申し訳ない場面だったんだろう。
その時の私は、道成の存在にすら気づかなかったというのに。
私は三味線を持たされ、少しだけ弾き方を教わった。
匡はその際、他の誰にもわからないようにささやいた。
「〇〇ホテル、1501号室」
驚いたが、何も聞こえていないふりをした。
そしてその日の夜、私は処女ではなくなった。
匡が個人的に常時リザーブしているその部屋のキーが、全部でいくつあるかは知らない。でも、その一つは私が預かっていて、いつでも使っていいと言われている。
もちろん勝手に使うことはなかったが、匡と会うために数えきれないほど通った部屋で、他の誰かの気配を感じたことはない。
だから婚約者がいるとはいえ、今現在、匡が継続的に肌を重ねているのは、もしかしたら私だけなのかもしれない。
初めてそう考えた時、匡への罪悪感を感じた。
一途に私を愛してくれる道成には感じたことのない、申し訳なさを、匡には覚えてしまう。
何の約束もない、未来を夢みることさえ難しい……手の届かない相手なのに、とても不思議で、自分でもよくわからない感情だった。