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ラストソング
第10章 旅立ち
レンくんの実家は、下町エリアながら、
こじんまりとした小さいフレンチレストランだった。

シェフ姿で帽子を取ったお父さんと、
黒服にソムリエバッジをつけたお母さんが俺たちを出迎えた。
思ったより2人は歳を取って見えた。


中に通されて、
俺たち外野は周りの席に座り、
4人の会話を緊張しながら聞いた。


レンくんは、
「ちょっと順番が違うけど、
僕はこちらの美和さんと結婚します。
さっき、婚姻届を出して来ました。
それから、美和さんは妊娠してます。
病院に行って確認して来ました」ときっぱり言った。

親に敬語なんだな。


レンくんのお父さんは仏頂面で腕組みしたままだ。
お母さんの方が、
「何ヶ月なの?」と訊くと、
美和さんは、
「12〜14週とのことです」と答えた。

「失礼ですけど、お幾つですか?」と続けたので、

「42歳です」と答えると、お母さんはお父さんの方を見て、沈黙してしまった。

重苦しい空気になった。


「美和さんとの結婚を認めてくれないとしても、僕は…」とレンくんが言うのを遮ったのはお父さんの方だった。


「認めるも何も、結婚というのは当人同士が決めることだ。
周りが何を言おうが関係ないだろう?」と静かに言った。


「私がレンを産んだのは、44歳だったわ。
大変よ。
高齢出産って。
運動会とか、若いお母さんたちに混ざって走らなきゃいけないしね」とお母さんが笑った。


「私たち、お店をやってるから、子育てとかあんまり手伝えないかもしれないけど、私はとても嬉しいわ。
気難しいし、頑固な処もあるし、
無口で人付き合いも苦手で、
大学まで出たのに、うるさい音楽ばかりやってて、
彼女は勿論、結婚とか子供なんて出来ない子だと思ってたから、
凄く嬉しいわ。
美和さん、レンを宜しくお願いしますね」と、お母さんは頭を下げた。

美和さんとレンくんは顔を見合わせると、
「ありがとうございます」と頭を下げた。


だが、仏頂面のお父さんは立ち上がると厨房の方に行ってしまった。


「ちょっと、お父さん?」と、お母さんが後を追い掛けて戻って来ると、

「ごめんなさい。
あの人、口下手な上に泣き上戸で。
ご飯食べて行ってと言ってるから」と笑っている。


「私、手伝いますね?」と美和さんが立ち上がると、
お母さんと美和さんは楽しそうに厨房に消えてしまった。


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