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ラストソング
第2章 心機一転
直子の部屋には誰も居なかった。

俺は出張で使ってたスーツケースに、
自分の服や靴を詰め、
仕事用のバッグにはノートパソコンなどを纏めた。

俺が使ってたマグカップや食器、歯ブラシなんかは、
ゴミ箱に入れた。

手近にあった裏紙に、
「俺のモノが残ってたら捨ててください。
さようなら」と書いた。

「今までありがとう」の文字も書こうかと思ったけど、
嘘くさいと思ってやめた。


作曲の時使うアコースティックギターを担いで、バッグとスーツケースを持ち、
部屋の中を振り返った。

何の気持ちも持たなかった。
多分、俺の中では、だいぶ前に終わっていたんだろう。


鍵を閉めて、ポストに入れると、
カタンという金属音が響いた。


そして、タクシーを止めて、美和さんのマンションに戻った。



「思ったより荷物、少なかったわね」と言うと、

「皺になると困るスーツとかは、
取り敢えずこっちに掛けておくと良いよ」と、
部屋の片隅にある備え付けのクローゼットを開けた。

ガランと何もないバーに、
幾つか同じ形のハンガーが掛かっていた。


仕事用のスーツとステージ用の衣装を有り難く掛けさせて貰うことにした。



美和さんは、黒縁の眼鏡を掛けてパソコンに向かっていたので、
仕事してるのだろうと思って、
隣の部屋で腹筋と背筋をしていたら、


「ちなみに、浮気相手って?」と言われた。


「マークでした。
サポートメンバーのベース弾いてた…」


美和さんはパタンとパソコンを閉じると、
俺が考えてもなかったことを言った。


「スタジオ練習に来るかしら?
ライブは?
来ないことを想定した方が良いわね」


「えっ?」


「失礼だけど、きちんと契約書交わしてる?」


首を横に振るしかない。
確かに口約束だけで、
毎回練習やリハーサル、本番の時にギャラを手渡ししてるだけだ。

でも…信頼関係はあると思っていた。


「幾ら、払える?」


「えっ?」


「サポートメンバーに、ギャラ、
幾らまでなら払える?」

美和さんは真剣な顔で言うので、
俺も真剣な顔で金額を伝えた。


「リハ、14時からよね?
スタジオの情報、後でLINEしてね!」と言うと、
また、美和さんはパソコンを開いて仕事を始めた。
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