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ラストソング
第6章 一騎討ち
レンくんのバンドの演奏は、いつものように始まったはずだった。
安定したリズム隊。
酷い演奏だけどキャラが立ったリードギター。
そして、際立つボーカルがサイドギターも弾く。


ところが、この夜のリードギターは最悪過ぎた。

チューニングはメチャメチャ。
キーを間違えてギターソロを弾く。
テンポも不安定で走る。

苛立ったその子は、大きな声で喚くと、
最後の曲の前にギターを床に叩きつけてステージを降りてしまった。

一瞬騒然とする。
レンくんが、唇を噛み締めるのが見えた。

でもその後、レンくんは、
美和さんの方を見て頷くと、
弾き語りバージョンでいつものラストの曲を歌い始めた。
最初は静かに。
でも、少しずつ声量を上げて。
それに、ドラムとベースも絡んで行って、
圧巻の演奏で終わると、物凄い拍手が起こった。

美和さんは、涙ぐんでいたが、
怒った顔もしていた。


ステージの上で、楽器と機材を片付ける。

叩きつけられたギターを、レンくんがケースに収めて、
エフェクターやケーブルも片付ける。

リードギターの子は、店を飛び出したまま、携帯にも出ないらしかった。



全ての演者の演奏が終わっても、ギターの子は戻って来なかった。
その子と一緒に住んでいるという、別バンドの男に、楽器ケースとエフェクターケースを渡して、

「もう、戻って来ないでくれと伝えてください」と、
レンくんが静かな声で言っているのが聞こえた。


近くのファミレスで、レンくんたちのメンバーと俺たちと打ち合わせすることになった。
美和さんにも残って貰った。


「改めて、今回オファーしたかったのは、
俺たちのレコ発ライブツアー最終日のオープニングアクト。
箱と日程と時間はこんな感じ」とフライヤーを見せながら説明した。

「再来週の土曜日で、レンくんのバンドのスケジュールみたら、
ライブは入ってないみたいだった。
急な依頼だから、ノルマはないけど、
固定のファンの子が来るようなら、バックマージンを渡す感じで」と言った。

「元々、オープニングアクトする予定だったバンドは…
ちょっと俺と揉めて、連絡もつかなくなったから断ったんだ。
出演は俺たち入れて3組。
レンくんたちと、もう1つは大所帯のスカバンドだから、
キャラも被らず、良いかなと思ってるんだけど、どうかな?」
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