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あおい風 あかい風
第9章 乱
 いつも結月には関心がなさそうな先生にさえ わかったようだ。
 「戸渡くん すごく良くなったね」

 わたしも そう思う。

 「音色が澄んでいるのに 豊かさが感じられる。良くなった」

 こんな短期間で 技術が上達するはずがない。わたしが変わったのだ。

 「今まで 強さや激しさばかりが前面に押し出されていたのに 表現されていなかった部分が出てきた、というか。とても良くなった」

 強ければ すべて乗り越えられる、という信念が塗り替えられた。強さを捨てなければ越えられないことがあるのを知った。


 愛する、ということ。



 髪飾りを忘れてきたのに気がついたのは 次の結婚式のアルバイトの前日だった。
 
 それは 電話する口実になるだろうか。
 陽輝は どんな風に応えるだろう。
 声が聞ける歓びより 傷つくことへの恐怖の方が大きかった。
 あれが最後なのだ。
 電話してはいけない。

 陽輝は 日常生活に戻る。あの時間を忘れて いつも通りの生活を また始める。
 好きな女と逢い その人を抱く。大事な時を過ごす。
 
 わたしのことを忘れる。


  震えるほど苦しかった。
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