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Memory of Night 2
第8章 蛍の思い出

桃華と秋広は七つ違う。秋広の方が年下なことと性格もあり、いつだって母の方が強かった。
それはもう、宵の中での常識だ。
「さて、そろそろ帰るか。花火が終わると人がいっきに帰り始める」
唐突に、桃華が言った。
三人がいるのは、姫橋公園という自然公園だった。
公園内は広く、奥には姫橋神社や運動公園になっている場所、アスレチックがある場所まである。
毎年八月末に夏祭が催され、一年で一番人が集まるのだ。
屋台も出るが、姫橋祭は夜がメインだ。
花火が上がる。その周辺は人でごった返すから、人混みが嫌いな桃華はいつも離れた場所に行くか、花火が終わる前に帰ってしまうことが多かった。それでも毎年、家族揃って祭には来ている。
いつなんどきも、問答無用で桃華の言葉に決定権があるので、宵がまだ帰りたくないとごねても、連れ戻されてしまうことは目に見えていた。
「蛍……」
桃華と秋広に両手を引かれ、歩きながら宵は名残惜しげに後ろを振り返った。
川周辺にたくさん浮かぶ蛍は、幻想的で美しい。捕まえるのが叶わなくても、せめて手に触れてみたかった。
「また来年な。今度虫かご持ってくっか」
「うん!」
「蛍は獲っちゃだめだよ、捕まえないでくださいって看板立ってたでしょうが」
「頭かってーよなあ、パパは。バレなきゃいいじゃんな?」
「もう、桃華さんは自由すぎるよ」
自由奔放な母と、それを必死にたしなめようとする父。
見慣れたやり取りに、宵も声をあげて笑った。
けれど次の年、家族で姫橋祭を訪れることはなかった。
ーー両親が事故で死んだのは、その祭の日から三ヶ月近く経った頃だ。十一月の終わりの、豪雨の日だった。

