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Memory of Night 2
第9章 臨時ポールダンサー
メーターは、八十を超えている。九時半を過ぎているので車通りは少ないが、夜で、しかも雨で視界が最悪の中こんなスピードは自殺行為だ。
「ドライブ付き合うから、落とせよスピード!」
無理矢理停めようか迷ったが、ハンドルを誤って突っ込まれても困る。
ふいに宵の脳裏に、七年前のある記憶が蘇った。小学校の教室の窓から見た灰色の風景。あの日もどしゃ降りだった。
雨足が強まったり弱まったりを繰り返す不安定な天気の中、教室に駆け込んできたのは誰だったか。クラスを持たない先生か、事務員だったようにも思う。
担任はその人物とほんの少しの間言葉を交わし、顔色を変えて宵の席まで駆け寄ってきた。
「ーーお、落ち着いて聞いてね、神谷(かみや)くん。ご両親がさっき交通事故に合われて病院に運ばれたって」
ーーあの日もこんな雨だった。
雨の中のドライブは、どうしても両親の死を思い出させる。
「悪夢でも見ているような顔色だな」
春加は笑った。ちらりと向けられた眼差しに、嬲るような色が見える。狂気じみたその顔にぞっとした。
「今日はまだ帰さないから」
さらに加速し、赤いスポーツカーは夜の闇の中へと消えていった。