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Memory of Night 2
第13章 投影

春加は椅子から立ち上がり、バラの花束を床に叩きつけた。
錆びたパイプ椅子が床を擦れ、派手な音が鳴る。
叩きつけられたバラは、今度こそ無惨に花を散らせる。
「もう、ショーに出たんだからいいだろっ! 出てけよ! 一人でいたいんだよっ!」
がなり散らす春加に、亮は口元を歪めた。
「……はいはい」
そうして部屋を出ていく。
肩で息をし、再度椅子へと腰を下ろす。
しばらくするとまたドアが開いた。今度はノックすらない。
ドアをほんの少しだけ開け、顔を見せたのは亮だったがその手には黄色い花のブーケを持っていた。
「そうそう、これだけ。君にってさっき預かった。杏(あんず)の花だね、珍しい。……誰からだと思う?」
無視を決め込む春加に、亮は意外な人物の名を告げた。
「今のハルちゃんに渡すとそのバラみたいに滅茶苦茶にされかねないからね? 僕が預かっておくよ」
苛立たせた元凶が、何を言うか、と思う。
ドアを閉めようとして、亮の動きが止まった。
「ちなみに杏の花言葉って知ってる?」
春加は一切の沈黙を崩さない。
亮は面白がるように間を置いてから、呪文のようにゆっくりと唱えてみせた。
「ーー『疑い』と、『疑惑』」
春加が顔をあげる。ドアが閉まる音が、狭い室内に小さく響いた。

