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Memory of Night 2
第18章 人魚姫
大山との作業を中断した明は、一人でこっそり民宿を抜け出し昼間遊んだ海に向かって走っていた。
先ほど唐突に思い出したこと。それはーー忘れ物。
魚突きのためビニール紐で繋いで浮かべていた浮き輪は明のお気に入りだった。手持ちの中では一番大きいサイズで、スイカ模様の可愛い浮き輪。
(まだあるかな)
ビニール紐が切れてさえいなければ、あるはず。
明は立ち止まり、スマホを数秒見つめる。
誰にも何も言わずに出てきてしまったが、一言くらい伝えた方が良かっただろうか。台風が接近する中海に行く旨を伝えれば、止められるか、誰かしらついて来ると言われかねない。せっかく補強作業をしてもらっているのにそれを中断させるのも嫌だし、かと言って台風が過ぎるのを待っていたら、大海原に流されてしまうかもしれない。
(まだ雨も降ってないし、今なら大丈夫。海に入るわけじゃないし)
岩場から紐を引き、浮き輪を手繰り寄せればいいだけのことだ。
風もまだ暴風ではないし、危険はそれほどないはず。
明はスマホを再びショルダーバックの中へとしまった。
結局誰にも連絡はしないことにし、一人海へと向かい走り出した。