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Memory of Night 2
第18章 人魚姫

「……嘘だよ」

 晃は笑った。

「ま、あの場で一番しなきゃいけなかったのは百十九番通報だよね」
「……それな」

 自力で助けようとしたのがそもそも間違いだった気はするが、とっさの時は思いつかないものである。
 晃は宵の頬や首、額や手首に触れる。

「体、だいぶ冷えてるな。寒くない?」
「平気」

 水温は多少冷たく感じたが、気温はそれほどではなかった。まだまだ夏だ。

「雨降らないなーとは思ってたけど、風も止んできてるね。もう台風も逸れたのかな」

 そういえば。いつの間にか、風も落ち着いてきていた。曇っていた夜空からは徐々に切れ間が見え始め、まばらな星と月明かりが漏れていた。

「マジかよ。さっきまでの騒ぎはなんだったんだよ」

 海を覗くと、波もだいぶ凪いでいた。闇一色だった水面に月の光が反射し、きらきらと輝いて見える。
 昼間とはまた違った美しさに、宵はついぼんやりと眺めてしまう。

「本物の人魚姫が居たりして」

 操縦のため船の前方に戻った晃がつぶやく。

「大山にとっての人魚姫は、明だろ」
「そうだったね」

 宵は目を閉じた。小さい頃聞いた童話の内容を思い出そうとしても、うろ覚えでよくわからなかった。お伽噺にさほど興味もない。
 人魚姫のラストはどうなったっけ。

「ーーハッピーエンドで結ばれればいいね」

 とりとめのない思考を読まれた気がして、宵は少しびっくりしながらも頷くのだった。
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