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Memory of Night 2
第23章 墓参り

毎年この瞬間だけは、両親のことを思い出さずにはいられない。
それぞれの顔や声、笑顔や仕草、三人で暮らしていたアパートや、乗っていた車。ランダムに、とりとめもなく脳内で再生されていく。
蘇る声は、どれも鮮明だった。
ふいにあの日の、朝の記憶が浮かび上がる。
「ーー宵、行ってらっしゃい。雨で見づらいからね、車にも気を付けてね」
朝、学校に行く時いつも見送ってくれるのは、父の秋広だった。
でもその日は母の桃華もいた。
「行ってらー」
寝起き姿のまま、手を振ってくれていた。
なぜ、いつも仕事で家を早く出てしまう桃華がいたのか、役所に出すリコントドケがなんなのか、意味を理解したのはだいぶ月日が経ってからだ。
ーーあの時はただ、このままずっと三人で暮らしていくものだと思っていた。何も失わず、日常は日常のまま、当たり前に続いていくと。
けれどそれは、突然終わりを告げた。
土砂降りの中駆けつけた病院で見せられた現実は、桃華と秋広の変わり果てた姿だった。
ーーどうして。なぜ。
突然の悲しみと、やり場のない憤りだけが残った。
つい気持ちが昔に戻りかけてしまい、宵ははっとしたように晃を振り向いた。
「……悪い、ちょっとぼーっとしてた」
「いいよ」
晃も隣で墓を見つめている。
「時間はいっぱいあるし、急がなくて大丈夫。せっかくお父さんとお母さんに会いに来たんだから」
「……ありがとう」
宵はもう一度手を合わせ、立ち上がる。

