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Memory of Night 2
第26章 承諾書

金曜日なだけあり、バーの客入りは多かった。引きも遅そうである。
そんな中、宵はいつもの見知った顔を視界の端に捉える。
相手も自分に気付いたようだった。
「……いらっしゃいませ」
「やあ、宵くん。今日も綺麗だね」
ソファに座ってそう声をかけてきたのは、緊縛好きな中年の男、土方だ。にこにこと人の良さそうな笑みを見せられ、宵も会釈と礼を返す。
「ありがとうございます」
バイトを始めたての頃は、シフトに入るたびにほぼ毎回見かけていた。忙しかったのか、夏は一ヶ月近く見かけない時期もあったが、最近また毎日のように店に来ている。
「お仕事、落ち着いたんですか?」
「え?」
「一時期いらっしゃらなかったでしょう? 仕事が忙しかったのかと思っ……」
「宵くん!」
「……!?」
突然土方は立ち上がり、感極まった様子で宵の両手をぎゅっと握った。
わけがわからず、宵は思わず後ずさる。
「すまない、君に一言も告げず、店に顔を出せなくなってしまって……っ! まさかそんなに気にしてくれていたなんて……」
「いえ……」
(気にしてねーって!)
おもいきり吐き捨ててやりたかったが、どうにか心の内だけに留める。

