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Memory of Night 2
第31章 来訪者

志穂が使っていたマグカップはまだ食器棚の奥にあった。持ち手の横にテディベアがプリントされた白いカップ。何年も前からずっとこのマグカップを使っていた。
大好きな紅茶も、ジュースも、薬を飲む時の水道水も、飲み物はいつもこれだった。
年季が入りすぎて、プリントされたたテディベアはところどころ剥げている。
「はい。砂糖とミルクも好きなだけ」
「ありがとう。あー! まだ取っておいてくれたんだ、このマグカップ」
「うん。懐かしいよな。新しい家に持ってく?」
志穂はそっと、剥がれかけたテディベアを人差し指でなぞった。
「どうしようかなあ。このまま置いといてくれてもいいし」
「別に捨てねーけどさ」
紅茶に口をつけながら、志穂はアパートの部屋を見渡す。
「ここに来ると、すごく懐かしい気持ちになる」
「そりゃ、長年住んでた家だし当たり前だろ。いつでも遊びにくりゃいいじゃん」
「……今はお友達と住んでるのに、お邪魔でしょう?」
「別に気にしねーよ、晃は」
志穂もこのアパートの合鍵は持っている。だが何かを届けに来た時留守だったとしても、勝手に中に入ったことはなかった。
玄関の前に置くか、ドアノブに引っかけてある。

