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Memory of Night 2
第5章 進路
面談の時間は五時からのはずだったが、彼が来たのは五時を三分ほどまわった時だった。
「すみません、遅れましたー」
まったく悪びれない調子で教室に入ってくるなり、席に座りもせずに進路調査の紙を手渡そうとしてくる。
「こらこら、順序が違う。まず座りなさい」
彼の保護者は来ない。それは事前に聞いて知っていた。彼の本当の両親は、彼が十歳の時に交通事故で両親を亡くしている。初めて担任になった去年、学年主任から聞かされていた。
その後養子として引き取られていることや、その育ての親である女性が去年まで入院していたということなど、担任になってから把握していった事情も多い。倉木自身、宵を病院に一度送り届けた経緯があった。
宵の家庭の事情をある程度把握している分、彼と話すときには少し気を遣う。
「出すだけでいいじゃん、この紙。どうせ就職だし、わざわざ面談することある?」
「ある。はい、あと十二分しかないから早く座る」
腕を組み促すと、宵はしぶしぶ倉木の正面の席に腰を下ろした。
進路の話を始める前に、倉木にはどうしても言っておきたいことがあった。
「お義母さん、退院したんだってね。……本当に良かった、おめでとう」
「ああ、うん、ありがとうございます。車出してもらったり、先生にはかなり世話になったのに、ちゃんと言ってなかったっけ?」
「そんなんはいいけどさ、もうご病気の方は」
「平気。病院ももう定期検診くらいしか行ってねーし」
「……良かった、本当に」
倉木は安堵の微笑を浮かべた。