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Memory of Night 2
第32章 雪

宵の言葉を遮り、春加は低く呟いた。
「あんな場面に出くわしたら、汚いって思うに決まってんだろ……! なんにも知らねーくせに生意気な口叩くなよ! ……ジジイ達の前でおっぱい出して、万札服やパンツに挟んで、尻尾振りながら男のちんこ咥えようとしていたあたしをーー」
春加の喉がひくりと鳴った。
美しかった桃華と目があった時の一瞬の表情が、脳裏にちらついて離れない。
「……心配していただけだろ!」
春加を遮り今度は宵が被せてくる。いつもよりも強い口調で、桃華によく似た少年は言った。
それから少し間をあけ、口調を和らげ、続ける。
「酷いことや痛いことされてないかとか、体を傷つけられてないかとか……、あんたを心配してただけだろ? 見下したり、汚いと思って軽蔑してたわけじゃない。じゃなかったら一人で店まで乗り込んで、連れ出そうとまでしないだろ。ーー少なくとも俺の記憶の中の母さんは、どうでもいい人のために体張るような聖母みたいな人間じゃなかったよ」
春加は何も返せなかった。
車はいつの間にか街中を走っていた。華やかなイルミネーションがフロントガラスを照らし、車内は明るかった。
流れていく景色を捉えながら、思う。
そうだ、桃華は必死に自分を連れ出そうとした。でもそれを、その手を春加は自ら振り払ったのだ。

