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Memory of Night 2
第32章 雪

最近情緒が安定しない。起伏の激しい感情をまったく制御できなかった。気付いたら怒鳴り散らしていたり、泣いていたり、ふと我に返るとアホみたいな量のアルコールを摂取していたりする。
春加は数回、深呼吸した。顔をハンドルに伏せたまま、何度か息を深く吸い、吐き出す。どうにか心は落ち着いた。
「桃華があたしをどう思っていたとしても、あいつが綺麗な場所で生きてたことにはかわりないだろ」
覇気のない声で。春加は言葉を続けた。
「家に帰れば優しい旦那がいて、毎日溢れんばかりの愛情を貰って。……おまえも、待ってただろ、母親の帰りを」
幸福だった桃華を妬まずにはいられなかった。自分が堕ちれば堕ちるほど、彼女を羨ましく思うくすぶり続ける嫉妬や劣等感が膨らんで、それに比例して自分がさらに大嫌いになった。
不思議ともう他人への苛立ちはなかった。
電池のない人形のように、春加は淡々と口にする。
「おまえ自身もそうだろう? アパートに帰ればおまえのことが大好きな恋人が待ってる」
宵を連れ回した前回のドライブ。投げつけた問いかけは、宵にも桃華にも二人に対して思ったことだ。
金で誰かと寝たことなんてない。桃華は秋広に、宵は晃に大切に抱かれたことしかないだろう、と。

