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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

ーーそこまで話し終え、千鶴はぼんやりと、光るペットボトルを見つめる。視線はほとんどそこだった。
隣に座る桃華によく似た少年の顔を、今はまだ見たくない。
「ーー今さらだけど、あんたの名前どっちで呼んだらいい?」
唐突に、宵が言う。
本当に唐突だな、と思う。
「どっちでもいいよ」
名前なんてどうでもいい。そう思っていたが、いざ本名を明かすと、不思議と昔の記憶が鮮明に浮かんでくる気がした。
卑猥で華やかな店ではなく、電車もバスもほとんど無いような片田舎の光景が、脳裏に映し出される。
「東北で産まれたんだ、母さん」
「……おまえ、知らなかったの?」
驚いて思わず宵を振り向いた。
「うん、全然。母さんの親には会ったこともない。親父の方のじいちゃんばあちゃんは何度も会ったことがあったし、ガキの頃病気で死んだのも知ってる。五歳くらいの時だっけな。病気でばあちゃんが死んで、一年後くらいにじいちゃんも。……でも母さんの方の親には、一回も会ったことはなかった。当たり前に存在してたんだろうけど、話にすら出たことなかったから、本当に居るんかなって思ってた」
「存在してなかったら、あたしと桃華はどうやってこの世に産まれたんだ」
「……確かに」

