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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

孝明のことがあっても、不思議と桃華に大きな嫉妬の感情は抱かなかった。綺麗な外見に、全く羨望がないかと言えば嘘になる。
だが、作り物のような美しい容姿に産まれても、桃華は少しも幸せそうじゃなかった。あの顔じゃなかったら、男に色目を使われることも痴漢に会うことも女子に妬まれることもなく、彼女自身男嫌いにはならずに済んだはずだ。
……姉のようにはなりたくない。千鶴は自分がずるいことを考えていると、自覚していた。自分なら、もっと上手に生きていける。
桃華を反面教師にして、彼女よりも幸福な人生を生きてやろうと誓った。
千鶴は意識的に他人への接し方を使い分けた。クラスメート、先輩、後輩、教師、女子、男子、家族、友人。相手によって表情や話し方、態度を替えた。高校に上がる頃にはずる賢く計算高い自分の性格を、ある程度客観的に見られるようになっていた。次第に身に付いていった高いコミュニケーション能力は、店で働くようになってからも役立ったが、それもきっかけは桃華だった。
だが、恋愛だけはいつも上手くいかなかった。男子達からモテるようにはなったが、付き合うといつの間にか立場が逆転し、フラれるのは千鶴の方だった。

