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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

千鶴は宵を振り向いた。わずかに細められた灰色の瞳。その表情からは、彼の感情は読み取れない。そんなところも、桃華に重なってしまう。
「……続き、話せよ。あんたが母さんのこと嫌いになったのって、男取られたから?」
「まさか。あんなの、きっかけに過ぎない。……そもそも桃華は、取る気なんてさらさら無かっただろうよ。興味すらなかっただろ」
「そりゃそうか。二十歳超えてて中学生に手を出してたらヤバイもんな」
宵は楽しげに笑った。
それはそうだ。今冷静に考えれば、当たり前の感覚だった。歳が十離れているのだ。男嫌いじゃなくたって、孝明に桃華が何かしらの感情を抱くことはなかっただろう。
「だったらなんで、仲悪くなっちまったの?」
宵の問いに、首を振る。
「別にもともとそこまで仲が良かったわけでもないよ。悪くもない。姉妹で一緒に出かけたことも何かをしたこともなかった」
「へー、そーなんだ。意外」
宵は興味深げに聞いている。
千鶴は再びペットボトルを見つめた。土壁に囲まれた真っ暗な空間で、その光だけはとても幻想的だった。
目を閉じ、思考をまた学生の頃へと戻す。昔話を語るように、千鶴は口を開いた。

