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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

千鶴は一拍ほど間を開けた。無意識だった。
「ーーどこにも無かったんだ、あの辺鄙な田舎町に桃華の居場所なんて」
瞼を閉じた。
だからあの日出ていったのは、最善の選択だったはずだ。桃華なら、知らない町でも都会でも、どこでだって生きていける。
だってずっと、彼女は一人だった。
「おまえに親や故郷の話をしなかったのも、忘れたかったからだろう? そこで生まれ育ったことも、暮らしていたことも、全部無かったことにしたかったから……」
「ーー雪」
「……は? 雪なんて、あるわけないだろここに」
唐突に宵が呟いた。洞穴に閉じ込められているのに、そんなものが見れるわけない。一体なんの話だと千鶴が怪訝な顔をする。
「そうじゃねーって。東北出身で一個母さんのこと思い出した。……雪見ると、なんか楽しそうだったなーって」
「楽しそう?」
「よく外眺めてたんだよ、窓から。関東じゃ、あんま降んねーじゃん。物珍しくておおってなることはあったけど、母さんの顔はそういう感じでもなくて。……懐かしいって思いながら見てたんじゃねーかなって思うんだよね」
「懐かしい……」
千鶴は復唱した。
故郷での日々を、振り返ることなどあったのだろうか。
ーー故郷を出て大きな幸せを手にしていた彼女に。

