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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

「ーーさて、ここで問題。桃華を見送った時の、あたしの心情を答えよ」
「……なんなんだよ、急に」
思いつきで投げかけた問いに、宵は驚いたような声を出す。
それはそうだろう。一方的な千鶴の一人語りの途中、まさか急に現文のテスト問題のような問いを出されるとは思わない。
間があった。隣で真剣に考えているような気配があった。
「『寂しい』、とか?」
しばらく待って、出てきた答えはとても一般的でありきたりなものだった。確かに、一緒に住んでいた姉が急に家を出ていくと言ったら、普通ならそう思う。
だが、千鶴は首を横に振った。
かすってすらいない。
「不正解」
「知るかそんなもん。正解は?」
千鶴は部屋を出ていった時の、翳りが差した桃華の顔を思い返した。自分は布団に潜ったまま、彼女が廊下に出て戸を閉めるまでの一部始終を眺めていた。
ふっと湧いた、感情は。
「『可哀想』……だった」
「……え?」
呟くように千鶴は言った。確かにそうだった。月日が経って口にしてみると、こんなにもしっくりとあの日の心境にハマる。
「……見た目がいいばかりに男嫌いになって、自分の性別や外見も好きになれなくて、勝手に嫉妬や妬みの的(まと)にされて……。それでも、ずっと本心は隠し続けてたんだろうけど、結局最後はぶちまけて出ていっちまった。親と反りも合わなくて、長女だからって理由で工場だって継ごうとしてたのに」

