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Memory of Night 2
第39章 幸福の形

窮屈な暮らしを受け入れて、工場を継ぐとまで言ったのに、三十間近で出ていってしまった。もう、二度と帰ってくることはないだろうと思った。
あの夜桃華が自分のところにだけ寄ったのは、きっと引き止められるのが嫌だからという理由だけではない。親に言えば家を出る理由を聞かれる。本当の気持ちを話したところで、理解してもらえないと勘づいているからだ。いや、理解しようとすらしてくれないかもしれない。
結婚して、子供を作ること。家庭に入ること。それが唯一の女性の幸せだと信じて疑わない両親に、桃華はずっと本当の気持ちを打ち明けられず、押し込めてきたのかもしれない。
まだ千鶴の方が、意思を汲み取ってもらえると思ったんだろう。だから最後に部屋に来た。だが、千鶴が桃華に抱いていた気持ちも、ずるくて汚いものだった。
両親の話を聞きながら、千鶴は桃華を『可哀想』だと思った。親にすら理解されない孤独な姉。でも同時に『優越感』も感じていた。
姉より自分の方が、周りから愛される人間になれる。桃華なんかより、もっと上手く生きていける。
両親が望むように、結婚して、子供を産み、温かい家庭を作る。女性としての幸せを手に入れてみせる。
姉の居なくなった家で、千鶴は決意した。

