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Memory of Night 2
第45章 卒業

晃はずっと、視線を外さなかった。茶色い瞳は間違いなく、自分を見つめている。なぜだか逸らすこともできず、宵は体温が上がっていくような気がした。
「そんな出会いができたのも、この学舎(まなびや)があったからこそです。僕たちはここでの出会いや学びを忘れず、それぞれの夢や進路に向かい、歩んでいきます。南風高校のますますのご発展を心より祈念して、答辞といたします」
晃は再び、一礼した。
いつの間にか、答辞に戻っている。進行役の先生は一瞬役割を忘れてしまっていたようで、なんのアナウンスもなかった。
頭を下げたままの晃。やがてパラパラと上がったのは、拍手だった。それは館内で波紋のように広がり、やがて喝采に包まれた。
(いや、拍手って……)
演説ではないのだから、答辞に拍手は本来ならおかしい。わかってはいても、つい宵も拍手を送っていた。
顔をあげた晃は、少し照れたように笑っていた。三年間ぴっしりとかぶり続けていた猫の皮を、張り巡らせた優等生というレッテルとその中に隠していたであろう本音を、少しはぶちまけられたのだろうか。
ーーそれならきっと、この大胆な答辞にも、意義はあったはずだ。
それから卒業式は淀みなく進行していった。

