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Memory of Night 2
第45章 卒業

わずかに細められた切れ長の瞳。それはどこか切なげだった。
「ーーそれでも俺には、この世界は、ずっと色味のないものでした。必死になれるものも夢中になれるものもなく、与えられるミッションを淡々とこなしていくだけの退屈な人生。……そんなふうに思っていました」
壇上の晃を見つめながら、宵は思わず椅子から身を乗り出してしまいそうだった。晃の伏せ目がちな空虚な眼差しが、宵の思考まで出会った頃へと引き戻す。
おもちゃを欲しがる子供のように自分に接していた、あの頃の晃。当事は何も思わなかった。でも今は、あんな顔はさせたくないと思った。
今あの眼差しに出会ったらーー自分が満たしてあげたいと、空虚なものを、埋めてあげたいと。そう強く思う。
その時、顔をあげた晃と目があった。錯覚ではない。晃は真っ直ぐに、自分を見つめていた。
その口元が、微かに笑っているように見える。それは優等生の顔ではなく、家でよく見せる素顔のままの笑みだった。
「そんなある日、春の足音が聞こえてきました」
その言い回しに、ここが大切な式の席であることを思い出し、宵は慌てて居ずまいを正した。
「まるでモノクロの景色が色付くように、新芽が溶けた雪の中から顔を出すように、その出会いが、俺の世界を変えてくれたんです。大袈裟でもなんでもなく、自分にとってとても大きな出会いでした」

