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フレックスタイム
第8章 ようやく披露宴
披露宴が終わったとはいえ、
すぐに新婚旅行に行ける訳ではなく、
カレンダー通りに仕事をしていた。


仕事的にも忙しい時期で、
残業や会食などになることも多かった。

セクションと立場は変わったけれど、
対外的な交渉などの統括なので、
伊藤さんとはよく顔を合わせることも多かった。


「あら?
ちょっとジャケット、脱いでください」

「えっ?何?」

「袖のボタンが取れかかってます」と言って、
ソーイングセットを出して縫っていると、

「男やもめは、こういう所がダメだよな?」と嗤う。

「あら?
だったら再婚なさったら?」

「相手がいねえよ。
社長みたいにイケメンじゃないしさ」

「あら?
伊藤さん、渋くて素敵ですよ?
声が良いですよね?」

「そうかな?」

「優しくて落ち着く声してますよ。
仕事の時は、時々凄みがあって怖いですけどね?」

「新婚さんに褒められてもなぁ」

「近くに青い鳥は居るんじゃないですか?」と笑うと、

「えっ?」と驚いた顔をした。

「ちゃんと言わないと伝わらないですよ?
あとね、いつまでも待っててくれるとは限らないですよ?
誰かに拐われちゃう前に、
気持ちはストレートに伝えてくださいね。
後悔しないように…」

「そうか。
そうだよな。
社長も猪突猛進だったしな」と、
違うことを言う。

「えっ?」

「佐藤さん…あ、違った。
松田さん…。
んー、ピンとこないな。
百合ちゃんさ、毎朝、すごく早い時間から仕事してたじゃん。
社長、ずっと気になって観てたんだよ?」

「えっ?そうだったんですか?」

「でさ、決め手はなんだったか知ってる?」

私はブンブンと首を横に振った。

「語学力でも、顔でもスタイルでもなくてさ。
毎日、木で出来た丸いお弁当箱持ってきてて、
お昼、食べてたんだって?
その時にね、毎回、手を合わせて小さい声で、
『いただきます』とか、『ご馳走さま』って言ってるのを遠くから見てたんだって。
用も無いのに、通れる時は、
毎回近くの通路歩いて、お弁当見て、
美味しそうだなって思ってたんだってさ。
そういうきちんと大切に育てられたんだって思える処に、
一目惚れしたらしいよ?」


思いがけないことを言われて、
びっくりしてしまった。
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